阿寒平太の世界雑記

World notebook by Akanbehda

日: 2018年7月30日

ネパールの国勢調査で分かる人々の生活

レンガとコンクリートの建物

前稿で扱いましたネパールの国勢調査項目には我々、日本人にはなじみのない項目が並んでいます。
まず、建物についてですが、建物の基礎の種類(泥目地煉瓦、セメント目地煉瓦、杭使用RCC、木杭等)、外壁の種類を質問している項目があります。これは地域防災と耐震技術を担当していた筆者には実に有効な情報でした。只、公表されている単位がward(日本で言うと区)レベルで集計されており、もしその下のcommunity(日本で言うと町)レベルであればより詳しく実像に迫れるのだが、と少し残念でした。


次に日本と違う項目は、飲み水についての質問です。水道水、井戸水、雨水、河水などの項目に分かれ、井戸水の項では、蓋をしている井戸か、カバーをしていない井戸か細かく尋ねています。はるか昔から国を統治する者にとって民に十分な飲み水を与えるという事は国の安定のためにも、公衆衛生の為にも重要な調査項目です。(昔、ネパールの治世者がどうやって民衆に水を与えていたのかは、他の項でお知らせします。) ただ、私たち日本人は余りにも便利な環境の中で生活しているために、こんな単純で基本的な最も重要な項目を忘れがちです。

次に日本と異なる点は、料理に使う燃料の種別を尋ねています。薪、石油、プロパンガスなどの種別を尋ねていますが、少し変わっている物として、「牛の糞」や「その他」という項目もあります。ネパールだけでなく隣国のパキスタンでも、田舎に行くと燃料にするため丸く平らにした牛の糞を、石の上で乾かしているのをよく見かけました。「その他」という項目には、太陽熱利用も含まれますが、日本で考えるような太陽熱を電気に替えるというシステムではありません。これは、パラボラ・アンテナのような形の集光機で熱源を得て、煮炊きにその熱を使うものです。実に単純な仕組みで光が集まる真ん中に鋳鉄製の鍋を置いて直接温める仕組みでしたが意外に早くお湯が沸くそうです。

太陽熱調理器。集光機の中央に鍋が置かれているだけです。

燃料政策に失敗したアフリカ大陸の東側にあるマダガスカルでは、大部分の樹木が薪に使われ、丸裸になった土地や畑の土は川に流れ、川の河床が高くなり、水田地帯が沼に替わり、食料の米の生産量も落ちました。燃料問題は、国土を維持していくうえで重要な問題です。
ネパールの国土の幅は、ほぼ日本の本州と同じくらいですがネパールの場合、北の中国国境から南のインド国境まで最大標高差は8,000m以上あります。如何に国土全体の表土を保つための樹木保全が必要なのか、わかる気がします。

日本の国勢調査の項目は、世帯の人数、生年月、国籍や仕事の従事の有無、従事地や通学地などがありますが、住居については賃貸か持ち家か或いは一戸建てか共同住宅か、床面積などを訊いています。また、5年前にはどこに住んでいたかを尋ねる項目もあります。これらの項目を見ていますと、日本の国土の中で、人がどのように生活し、移動しているのかをダイナミックに把握しようという意図が判ってきます。
しかし、いま社会的に問題になっている女性の社会進出や、労働力の問題、所得格差、貧困の問題などをより細かく把握し、日本の将来を見据えた方針を確立のためには、国勢調査項目は見直す時期なのかもしれません。日本の政府が莫大な借金を抱えた今、従来の方法や考え方に疑問を持たなければならない時なのではないでしょうか。特に日本では、10年毎の国勢調査以外に5年毎にも調査(この調査の調査項目は17項目です。) をしていますので、より細かく実情の把握が出来るシステムになっています。
ネパールでも日本でも、国勢調査の項目の中に、都市部の一所帯の家族人数を調べている項目があります。日本の場合、全国平均で2.54人、それに対してネパールの数字は4.32人。最近、ネパールでも小家族化が進んでいると言われていますが、まだまだ何か昔ながらの家族の存在がある様で、ホッとしました。

兎に角、この国勢調査の数字を読んで行くと、私の下衆の勘繰りも満足させてくれますし、色々と興味が尽きません。また、色々と日本やそれ以外の国との比較をやり始めると面白い物が次々と出てきそうです。今後も、ネパールの国勢調査結果を読み解きながら面白い事が見つかりましたら、この「阿寒平太の世界雑記」に書いていきます。

 

ネパールの結婚年齢

私がネパールでの活動期間中に借りていたアパートの台所の食卓の上に、小さな可愛い人形が置かれていました。多分、以前の住人が置いて行ったものなのでしょう。幼い花嫁姿の女の子とタキシードの裾を捲りあげて、腕まくりして女の子を守る様に傍に付き添っている幼い花婿の男の子。其の様子が微笑ましく机の上に飾っておりましたが、ある時から「可哀想になあー」と見るようになってしまいました。なぜか・・・?

食卓の上に会った可愛い陶器人形

ネパールでは、2011年6月に10年に一度の国勢調査が実施されました。JICAでは、この国勢調査の実施や分析の専門家を派遣して支援しました。私のアパートの下階に、私の先輩でJICAのシニア海外ボランティアとして統計局に派遣され、このシステム作りから分析作業を支援しているK氏が住んでおり、この国勢調査について色々と伺いました。(彼は、長野オリンピックの運営コンピューターシステムを作った方だそうですが、JICAというのはすごい人を見つけてくるものですね。)
国勢調査については、国連から調査項目の指針は出ているのですが、国によって其の調査内容もその数も違っています。日本は22項目、アメリカは10項目、イギリスは40項目、そしてこのネパールは、27項目。国によって調査項目の数は大きく異なっていますし、その調査内容も国によって大きく異なっています。

このネパールの国勢調査の中に、日本でそんな質問をしようものなら顰蹙(ひんしゅく)をかいそうな項目があります。ズバリ、最初に結婚した年齢を聞いています。婚活と言う言葉が出来、結婚年齢が上昇している日本では、なかなか聞けない質問の様な気がしますが、同時にその質問の集計結果が統計的にどんな意味を持つのだろうかと、考えてしまいます。(多分、人口の将来予測かな?そんな訳ないよなー。)

ネパールの国勢調査の初婚年齢調査結果表

さて、その結果ですが、10歳未満から5歳毎に分けられ50歳以上まで、男性、女性それぞれの初婚年齢ごとの人数が記載されています。なんと10歳未満で結婚した男子は22,865人、女子は115,150人。初婚年齢が10歳から14歳までの男女合計は138,015人、10歳以下を含めると、既婚者の11.3%の男女が14歳以下で結婚しているのです。それも圧倒的に都市部より田舎の方が多いのです。(ちなみに初婚年齢50歳以上の男子は、3,480人、女子は1,606人と記載されています。)

正にこの微笑ましかった人形が現実味を持ち「可哀想になー!」となった次第。そのような目でこの人形を見ると、子供たちの目が笑っていないし、如何にも『まーだ!疲れちゃったよー、もう遊びに行ってもいいでしょー。』と言っている様にも思えます。

其の他、未婚者人数、一回或いは複数回結婚しているそれぞれの人数、再婚者人数、男女寡(やもめ)人数、離婚者人数が記録されています。しかし、質問された方は『私の勝手でしょう!』と言いたくなるだろうなー。

 

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