戦禍がまだ、あちらこちらに見られるボスニア・ヘルツェゴビナの春の4月、雪の消えた山道で、道路を塞ぐ様に羊の群れが道路で何かを舐めていました。羊飼いに聞くと塩を舐めているとの事。彼らは冬の間に融雪用にまいた塩をアスファルトの亀裂から摂取していたのです。戦火のない、のどかな春の一頁でした。
人間と同じように動物たちも塩を必要とし、その量は一日当たり、ヤギは20g、馬は30~40g、牛は80g、ニワトリが0.8~1gとされています。牧場で飼われているこれらの動物たちは通常、岩塩を与えられています。
一方、野生のライオンや豹の様な肉食動物は、血まみれになって獲物を食べている時、その血に含まれている塩分を同時に摂取しているのです。草食動物は岩塩がある場所を知っていて、そこから塩分を摂取しています。
いちめん雪で覆われた極寒の地の草食動物たちは、露出した岩塩から塩分を採取しますが、食餌と塩分摂取の両立は難しく、トナカイが人間に飼われる様になったのは、人間のオシッコに含まれる塩分を求めて、人間の生活空間に入り込んだのが大きな理由だと言われています。
犬は塩分が不足すると、軽症では次のような行動や症状を見せると、獣医が書いています。『散歩の際、よその犬のオシッコをよく舐める。人の手や足をよく舐める。オシッコの後、陰部を長く舐めている。』『口の中が乾いていて、指で触ってもよだれがつかない、目も乾きがちで、白っぽい粘液状の目やにが見られる。』
重症になると『シュウ酸カルシウム結石が出来やすくなり、オシッコの色が濃い黄色になる。腎臓の数値が上がり始め、手術の麻酔時に不整脈が観察されるようになり、麻酔で死亡するケースもある。軽い下痢・嘔吐でも動けなくなる。』
極限状態になると『意識状態が朦朧とし、飼い主への反応が鈍くなり、運動能力も衰え運動障害や椎間板疾患と誤診される。内臓機能の限界から下痢をおこし、腎機能検査の値が跳ね上がる。』『このような症状に対する処置としては、点滴が行われるが、何杯かの味噌汁が、効果がある。』と書いています。(しかし通常、犬に塩分は禁物と言われており、多少抵抗感もありますが。)
さて、人間にとって塩はなくてはならないものです。胎児を育む女性のおなかの中の羊水は、原始の海の成分や塩分濃度と同じだと言われています。卵子と精子により誕生した新しい生命の最初の1、2カ月は、魚と同じ様にエラ呼吸をしています。胎児は、『地球上に生命が誕生した時から今の人間に至る40億年の過程を、十月十日の短い間にたどって誕生する』と言われています。壮大なロマンですが、その短時間の劇的な変化により、女性は「つわり」で苦しむのだとも言われています。(これを換算するとおなかの中の1秒は、胎児にとって約165年を意味します。女性も赤ちゃんもすごいですね!)
人間の体の中の塩も、動物と同じように血液やその他の体液の中に存在します。体重70kgの男性の場合、約200gの塩が体内に存在しています。塩分は体液の中で浸透圧により老化物を運び、水分量の調整で細胞と体液の間の圧力調整をし、筋肉を動かし、運動機能の素となっています。
ところで塩の摂取量について、日本とアメリカで基準の表示が違っています。塩は「塩化ナトリウムNaCl」を含む物の総称です。アメリカではこの「塩化ナトリウム」の中のナトリウム量(sodium)を摂取量基準に使い、日本では「塩化ナトリウム」(sodium nitrate)の量を摂取量の基準にしています。通常使用する塩には色々な物が含まれていますので、「塩化ナトリウム」量で計るより「ナトリウム量」で計る方が正確なのですが、通常の生活の中では不便です。
塩分・ナトリウム換算式: [ナトリウム(mg)×2.54÷1000=食塩相当量(g)]
この計算式よると、日本高血圧学会のガイドラインの「6g未満」は、アメリカのナトリウム量換算では2,362mgとなります。勿論、これはアメリカの摂取ガイドライン内です。
病気知らずの私は、最近、不覚にも血圧が高いと診断されました。高血圧の原因とされる塩分の摂取量について調べた際に見つけた多少、一般に興味がありそうな事を取り上げて羅列いたしました。調べた中に『塩分は高血圧の原因ではない』と言う学説もありました。もし、これが実証されれば塩辛やラーメンなど心おきなく食べられるのですが。
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