NPOつげの会の会員で精力的に活動されている水上勝之氏は「群馬音楽センターを愛する会」を主宰され、高崎にレーモンドが設計した群馬音楽センターの動態保存に奔走されています。
富山県五箇山、岐阜県白川郷は「合掌造り集落」として世界遺産に登録されていますが、3、4階建ての大きな茅葺の民家を生活しながら動態保存していく困難さは、よく報道されています。嘗てはそれぞれの家に大家族が住み、労働集約的な生産を行っていたこれらの集落では、大屋根の茅葺の葺き替えにも十分な労働力がありました。しかし、今ではそれぞれの家に住む家族の人数は、都市部の集合住宅の1戸と変わらない状態で、観光客のほうが多いのが現状で、茅の葺き替えも多くのボランティアに支えられて行われています。
ただ、観光地化されたこの「合掌造り集落」は、保存への様々な問題点を抱えながらも時代の流れの中で観光産業と言う新たな生産活動の中に生き続けることが出来ています。しかし、世界遺産に指定されながらもその存続を危ぶまれている、集落、町が沢山あります。そのような例を一つご紹介しましょう。
マザー・テレサが生まれた国としてご存知の方も多いアルバニア国(バルカン半島にありギリシャの北にある。) に「ギロカストラ」と言う都市があります。この都市の旧市街地は、2005年に「ギロカストラの博物館都市」として世界遺産に登録されました。街並みを形造っているのは、この地特有のクラ(kullë「塔」の意)と呼ばれる石作りの家で、オスマン帝国時代に作られたものです。
壁も屋根も全て変成岩の一種の板状の結晶片岩で作っています。高い建物は3階建て4階建てもありますが、各階の床は木造ですが、それ以外はすべて石で造られています。屋根も木造の母屋、垂木の上に板状の石が葺かれています。
この石葺きの屋根は、「合掌造り集落」の茅葺ほどのメンテナンスは必要ないのですが、石も長い間に劣化します。温度差による内部応力や、片理にしみ込んだ水の凍結により結晶は崩壊し、薄くそして時には崩壊しますので部分的な補修作業は必要です。それ以上に大きな問題は、その大きな重量の屋根を支えている木造の母屋、垂木です。
私がその都市を調査していた時、腐った母屋、垂木が折れ、屋根が崩壊し、その家で生活していた家族6人が死傷したというニュースをテレビで見ました。最近では旧市街地写真に見られるように瓦やトタン葺きの屋根も多くなってきました。この都市は城砦都市で大きな城もあるのですが、このバルカン半島はイスラム教、カソリック・キリスト教、東方正教などの宗教が入り乱れ覇権を争った地域ですので、少し大きな都市には城があり、それだけでは観光資源にはなりえません。まだ観光産業が発達していませんが、発達してもこの町が自立するためには、ギリシャ国境から40㎞と言う地の利を生かしてギリシャとの観光連携が必要なのかもしれません。
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