「トーチカ」と言う言葉をご存知ですか?もともとは、「ロシア語точка トーチュカ」ですが、主に鉄筋コンクリート製の防御陣地の事です。飛行機からの爆撃や、野砲や戦車による砲弾攻撃にも耐えられるように、分厚いコンクリートで覆われ、歩兵や戦車による攻撃を撃退するため小さな窓があり、色々な兵器で反撃できるようになっています。

一般的な形は、攻撃の弾の力を分散しやすいように半円になっている物が多いのですが、時には一般の民家に似せて屋根をつけ、窓を描いて偽装する事もありました。

バルカン半島の突端のギリシャのすぐ北西にアルバニアという国があります。そこに医療施設の調査に行った時、峠を越えて視界が開け広い農地が見えた時、クラゲのような半円をした物が、畑の中に何列にもわたって見えました。それがトーチカでした。

すぐ向こうがイタリア半島の靴の踵と言うアドリア海の入口に面する風光明美な保養地サランダで快適な時を過ごした後に、この醜悪な人工物に出会った時は、いささかいやな気分になりました。

農地に何列にも連なるトーチカの列
(白い点々がトーチカ)

農地の中のトーチカ
ギリシャ国境から12km位の所

トーチカは、入り口が攻撃されにくい自軍方向についており、敵が攻めてくる方向に攻撃用の窓が付いています。平原に無数に散らばっているこれらのトーチカの防御方向はギリシャ方向でした。

1976年6月の或る朝突然、アルバニア国民に総動員令が発令されました、その頃、まだ女子高校生だった私の仕事相手も、それから何カ月も学校で学ぶ事もなく毎日、トーチカ造りをしたそうです。当時、60万個のトーチカが作られたと言われています。その当時、アルバニアは社会主義をとり、隣国のユーゴスラビアのチトー大統領、ソ連、近隣諸国とも対立し鎖国状態でした。

これらのトーチカは、実際には使われる事はありませんでしたが、世界的な孤立状態から生まれた、脅迫観念に追い立てられて作られた膨大な数の戦跡です。